無線綴じの冊子は、背幅がわからないと表紙のデータがつくれません。背幅とは、本を立てて棚に入れたときに正面に見える「背」の幅、つまり本の厚みのことです。本文の紙の厚み×枚数に表紙2枚分を足すだけの計算ですが、肝心の「紙の厚み」がなかなか出てこない。
このツールは、製紙メーカーと紙商の公表値を突き合わせた紙厚データで背幅を計算します。上質紙・コート紙・マットコート紙・アートポスト・色上質の5系統21銘柄に対応しているので、うちで刷る紙かどうかに関係なく、どこの印刷所に出す原稿でも使えます。扉・口絵・片袖折り・見返しも入れられます。
なお、ホチキスで留める中綴じの冊子に背幅はありません。紙を二つ折りにして針金で留めるだけなので、背が「面」になりません。背幅の計算が必要になるのは無線綴じならではです。
背幅計算ツール(無線綴じ)
印刷の便利帳|計算する表紙をのぞいたページ数。両面刷りは紙1枚=2ページで数えます。
背幅そのものはサイズで変わりません。表紙データの展開寸法の計算に使います。
枚数は「紙の枚数」です。見返しは前後2枚ずつ=紙4枚分を加算します。
展開サイズ:—
| 内訳 | 厚み |
|---|---|
| 本文 | — |
| 表紙(2枚) | — |
※紙厚はメーカー・紙商・印刷会社の公表値を照合した参考値です(銘柄や測定条件で±10%ほど変わります)。実際の背は製本の糊のつき具合で±0.5mmほど前後します。「余裕をみるなら」の値(0.5mm単位で切り上げ)は、糊で太る分を見込んで大きめに作る流儀にあわせたものです。正確な背幅が必要な装丁は、印刷会社に束見本(実物サンプル)を頼むのが確実です。
※色上質の連量は「薄口・厚口」などの呼び方で選んでください(メーカー実連量と「上質◯kg相当」の2つの流儀があります)。
背幅の計算のしかた
やることは3つだけです。
1|ページ数を紙の枚数に直す。紙は1枚で表と裏、つまり2ページぶんになります。両面刷りなら「ページ数÷2」が紙の枚数です。本文80ページなら40枚。
2|枚数に紙1枚の厚みをかける。これが本文の厚みです。
3|表紙2枚分の厚みを足す。表紙は前と後ろで2枚分。扉・口絵・見返しを入れる場合は、その紙の厚み×枚数もそのまま足します(見返しは前後2枚ずつで紙4枚分)。
たとえば A5・本文80ページ・コート紙90kg・表紙アートポスト180kg なら、こうなります。
| 本文 | 80P ÷ 2 = 40枚 × 0.081mm | 3.24mm |
| 表紙 | 2枚 × 0.198mm | 0.40mm |
| 背幅 | 約3.6mm |
表紙データの横幅は「仕上がり幅×2+背幅」なので、A5(幅148mm)なら 148+3.6+148=299.6mm になります。仕上がりサイズは背幅そのものには影響しません。表紙データの展開寸法を出すときにだけ使います。
背幅早見表(ページ数と用紙から引く)
計算するのが面倒なときは、この表から引いてください。本文の厚みを表Aで引き、表紙の厚みを表Bで足すと背幅になります。表紙と本文を分けてあるので、どの組み合わせでも足し算1回で出せます。
表A|本文の厚み(両面刷り・単位mm)
| 本文用紙(四六判) | 16P | 32P | 48P | 64P | 80P | 120P | 160P | 200P |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 上質紙70kg(0.095mm) | 0.8 | 1.5 | 2.3 | 3.0 | 3.8 | 5.7 | 7.6 | 9.5 |
| 上質紙90kg(0.120mm) | 1.0 | 1.9 | 2.9 | 3.8 | 4.8 | 7.2 | 9.6 | 12.0 |
| コート紙73kg(0.066mm) | 0.5 | 1.1 | 1.6 | 2.1 | 2.6 | 4.0 | 5.3 | 6.6 |
| コート紙90kg(0.081mm) | 0.6 | 1.3 | 1.9 | 2.6 | 3.2 | 4.9 | 6.5 | 8.1 |
| コート紙110kg(0.101mm) | 0.8 | 1.6 | 2.4 | 3.2 | 4.0 | 6.1 | 8.1 | 10.1 |
| マットコート90kg(0.106mm) | 0.8 | 1.7 | 2.5 | 3.4 | 4.2 | 6.4 | 8.5 | 10.6 |
表B|表紙の厚み(2枚分・表Aに足す)
| 表紙用紙(四六判) | 加算 |
|---|---|
| コート紙135kg | +0.26mm |
| マットコート135kg | +0.35mm |
| 上質紙135kg | +0.36mm |
| アートポスト180kg | +0.40mm |
| アートポスト200kg | +0.42mm |
| アートポスト220kg | +0.50mm |
読み方:コート紙90kgの本文80ページに、アートポスト180kgの表紙。表Aで3.2mm、表Bで+0.40mm、合わせて約3.6mmです。表にない銘柄・ページ数は、上のツールで計算してください。表の数字はツールと同じ紙厚データから出しているので、食い違うことはありません。
背幅が3mmを下回るときは、無線綴じより中綴じのほうが向いています。糊のつく面積が足りず、製本が安定しません。
表紙データの作り方
無線綴じの表紙は、裏表紙(表4)+背表紙+表紙(表1)を横に並べた1枚のデータで作ります。バラバラの3枚ではありません。横幅は「仕上がり幅×2+背幅」、高さは仕上がり高さです。
絵柄を紙のふちまで印刷したい場合は、仕上がり位置の外側に3mmの塗り足しが必要です。断裁位置を示すトンボつきのテンプレートなら、折り位置(背と表紙の境目)もガイドで示されています。
背と表紙をまたぐデザインは、折り位置で絵柄が切り替わっても不自然にならないかを確認してください。製本の折りはわずかにずれます。背の折り位置に濃いインクの境目をぴったり合わせると、ずれが目立ちます。
背表紙に文字を入れるときは、背幅いっぱいに置かないこと。上下左右にゆとりを持たせておけば、多少ずれても目立ちません。細い背に文字を入れると、折りのわずかなずれで文字が表側にまわってしまいます。
ツールによって数字が違う理由
各社の背幅計算ツールを比べると、計算式そのものはどこも同じです。それでも結果が微妙に違うのは、扱いが3つに分かれるからです。
| 表紙2枚分を足すか | どこも足しています。ここは業界共通です |
| 糊の厚みを足すか | 式に足している大手はありませんでした。糊の実厚はEVA系で約0.8mm、PURで0.3〜0.6mmありますが、背幅の式には入れないのが慣例です |
| 端数をどう処理するか | ここが差の正体。計算値をそのまま出す会社、0.5mm単位で切り上げる会社、1mm単位で切り上げる会社があります |
切り上げる理屈は「製本の糊のつき具合で背は±0.5mmほど前後する。太る分を見込んで大きめに作っておくほうが調整が効く」というもの。どちらも一理あるので、このツールは正確な計算値と、切り上げた「余裕をみるなら」の値を両方出すことにしました。
JISなどの公的な規格はありません。最終的に正確な背幅が必要な装丁は、印刷会社に束見本(実際の用紙で作る白紙のサンプル)を頼むのが確実です。
注文先が自社の計算ツールを持っている場合は、そちらの数字を採用してください。このツールで出した値と照らし合わせて、食い違いがあれば注文前に聞いておくと安全です。
紙厚の数字について、正直なところ
紙の厚みは、メーカー自身が「保証値ではなく参考値」としている数字です。銘柄や測り方で±10%ほど変わります。このツールの値は、製紙メーカーの公表値・紙商の規格表・印刷会社の公開データを複数照合して、主流の帯に収まる値を採用しました。
連量(kg)は判型ごとに決まった原紙1,000枚=1連の重さです。基準になる寸法が判型で違う(四六判788×1091mm、菊判636×939mmなど)ので、同じ「90kg」でも四六判と菊判では別の紙になります。このツールと早見表はすべて四六判の連量です。
現場の豆知識を2つ。同じ90kgでも、上質紙はコート紙より5割ほど厚くなります(0.120mm対0.081mm)。本文80ページだと4.8mmと3.2mmで、1.6mmの差です。
そしてマットコートはコートより3割ほど厚くなります(0.106mm対0.081mm)。マット系はかさ高——同じ重さでふっくら仕上がる——だからです。ページ数の多い冊子で「思ったより背が太い」となるのは、たいていこれが理由です。
そして、計算値はあくまで目安です。湿度や温度、糊のつき具合で、仕上がりは前後します。予定より1mm太って背文字の位置を直してもらう、というのは実際に起きることです。
入稿前のチェックリスト
- 注文内容のページ数と、データの実際のページ数は一致しているか
- 背幅は、注文する用紙とページ数で計算した最新の値になっているか
- 表紙データの横幅は「仕上がり幅×2+背幅」になっているか
- 塗り足しは足りているか。背文字の余白にゆとりはあるか
- 表紙4ページ(表1・表2・表3・表4)と本文を、注文先の数え方どおりに分けているか
見落としやすいのが、途中で用紙やページ数を変えたときです。上質90kgからコート90kgに変えただけでも紙厚が変わるので、背幅も変わります。仕様を変えたら、そのたびに計算し直してください。
見積もりのときに聞いておきたいこと
厚みのある冊子は、用紙の波うちやふくらみも出ます。メーカー公表の紙厚にも±があります。注文前にこれを聞いておくと確実です。
- 背幅の計算に、表紙や糊の厚みは含まれていますか
- この背幅(自分の計算値)で表紙を作って問題ありませんか
- 束見本は依頼できますか
- 背文字を入れられる最小の背幅は何mmですか
とくに1つめは、会社によって答えが変わるところです。聞かれて嫌がる印刷会社はいません。手戻りを防げるので、むしろ助かります。
よくある質問
- 背幅は何ミリから必要ですか。
無線綴じは背に糊をつけて綴じるので、背幅がある程度ないと綴じられません。3mm程度からを目安にしている会社が多い一方で、16ページ・背1mmでも受けるという例もあり、業界で共通した最小値はありません。背幅が3mmを下回るようなら、中綴じのほうが向いています。
- 背幅2mmだと何ページくらいですか。
本文の紙で変わります。上の早見表でいうと、コート紙90kgなら約48ページ、上質紙70kgなら約40ページ、上質紙90kgなら約32ページが2mm前後です。表紙を足すとさらに0.3〜0.5mm厚くなります。
- 100ページ・200ページの背幅は何ミリですか。
コート紙90kgなら、100ページで約4.1mm、200ページで約8.1mm。上質紙90kgなら、100ページで約6.0mm、200ページで約12.0mmです。いずれも本文だけの厚みなので、表紙2枚分(0.26〜0.50mm)を足してください。
- 背幅の測り方は。
できあがった本なら、表紙の折り目から折り目までを定規で測ります。これから作る本は測れないので、紙の厚み×枚数で計算します(上のツール)。正確な背幅が要る装丁は、束見本を頼むのが確実です。
- くるみ製本の背幅の計算方法は。
くるみ製本は、本文の束を表紙でくるむ並製本の呼び方です。無線綴じの表紙の付け方を指しているので、背幅の計算は同じ。本文の紙厚×枚数に表紙2枚分を足します。
- 「背幅」の読み方は。
「せはば」と読みます。
- 文具のファイルの「背幅」とは違いますか。
別の話です。ファイルの背幅は綴じられる紙の量を指す寸法で、このページで扱っているのは冊子の背、できあがった本の厚みのことです。
関連ページ
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- 束見本って何?初めての冊子印刷で迷わない5つの確認ポイント ── 正確な背幅が必要なとき
- コート紙とマットコート紙の違い ── 同じ90kgでも背幅が3割変わる理由
紙厚のデータや背幅の考え方について気づいた点があれば、お知らせください。刷ってみて数字が変わったところは、そのつど直しています。
参考文献
日本製紙「npi上質」「オーロラコート」「ユーライト」銘柄規格(公表紙厚)/各紙商の用紙規格表を照合。色上質・アートポストは複数の紙販売・印刷会社の公開値の主流帯を採用。他社の背幅計算式については、2026年8月に大手印刷通販5社・同人誌印刷各社・製本業界の公開情報を突き合わせて確認しました。
