鉛白とは

鉛白は、古くから使われてきた白色顔料の名で、白に近い色です。
鉛白の由来
塩基性炭酸鉛を主成分とする白色顔料の名。白鉛とも呼ばれ、古くから使われてきた白の顔料で、おしろいにも用いられた。有毒で、硫化水素にふれると黒ずむという弱点がある。
色名としての鉛白
「鉛からつくる白」をそのまま表した名で、英語では lead white、white lead と呼ぶ。鉛の金属色は銀灰色だが、鉛白は鉛を細かく砕いた粉ではなく、鉛を化学変化させて得る別の物質で、白色の顔料になる。西洋絵画では、19世紀にほかの白色顔料が広まるまで、画家が使う中心的な白だった。
鉛白の見え方は一つに決まらない。顔料の組成、粒子の大きさ、絵具にするときの油、塗り方によって変わるため、「必ず黄みがかる」「必ず灰色がかる」とは言えない。
成分と白くなる仕組み
代表的な成分は塩基性炭酸鉛(炭酸水酸化鉛(II))で、2PbCO₃・Pb(OH)₂ と表される。鉱物でいえばハイドロセルサイトにあたる組成だが、歴史的に作られた鉛白がこの成分だけの均一な物質だったとは限らない。炭酸鉛(セルサイト、PbCO₃)が混じるものもあり、製法や後処理によって組成に違いがあった。
白く見えるのは、顔料の粒子が光を散らすため。絵具の層に入った光が粒子と油などの境目で向きを変え、可視光の広い範囲が戻ってくる。どの程度白く見えるか、下の色をどの程度隠すかには、粒子の大きさや分布も関わる。

歴史と製法
もっとも古い白色顔料の一つ。古代ギリシアのテオフラストスの『石について』には、鉛を使った白色材料の製法の記述がある。ただし、これは製法を書き残した人物を示すもので、鉛白の発明者を特定する話ではない。
後に「オランダ法」「ダッチ・スタック法」と呼ばれた製法では、酢を入れた容器の上に鉛板を置き、周囲に積んだ馬糞などの発酵で生じる熱と二酸化炭素を使った。鉛の表面にできた白い生成物を集めて顔料にした。ほかに、薄い鉛板に炭酸ガス・空気・酢酸・水蒸気を作用させるドイツ法があり、下の色を隠す力が大きい鉛白が得られるとされる。
絵画と塗装での役割
鉛白は下地を覆う力が大きく、油絵具の乾燥を助ける性質がある。白い物を描くためだけでなく、ほかの色を明るくする、肌の明るい部分をつくる、画面の下層に用いる、といった使い方をされてきた。写本の装飾や素描では、色のついた紙や暗い線に白を加える材料にもなった。
用途は美術に限らない。歴史的な建築塗装では、塗料を不透明にして下地を覆う顔料として、白だけでなく色つきの塗料にも使われた。油絵具では「シルバーホワイト」とも呼ばれる。
日本での鉛白
日本の絵画でも鉛白は白色材料として使われた。平安・鎌倉期の仏画などで使用が確認され、室町時代から江戸時代初期にかけて、主な白色顔料が鉛白から胡粉へ移っていったとされる。ただし作品や用途による例外があり、ある年を境に一斉に置き換わったわけではない。
鉛白と胡粉は別の材料。鉛白は鉛の化合物で、胡粉は貝殻を原料とし、主成分は炭酸カルシウム。
化粧の白粉にも使われた。『日本書紀』の持統天皇6年(692年)の条に、元興寺の僧・観成が白粉をつくって献上した記事があり、白粉の最初の記述とされる。鉛白(塩基性炭酸鉛)は中国から伝わり、江戸時代には鉛白を原料にした白粉が使われた。ただし昔の白粉がすべて鉛白だったわけではなく、穀物の粉を用いたものなどもあった。
毒性と変色
鉛は人体に有害で、特に子どもの神経発達への影響が問題になる。WHOは、安全と分かっている血中鉛濃度は存在しないとしている。吸い込む、飲み込む、皮膚にふれるといった経路で鉛中毒を起こすおそれがあり、多くの国で使用が禁止または制限されている。
日本では、1887年に歌舞伎役者の慢性鉛中毒が社会問題になり、1889年ごろから無鉛白粉が発売された。1930年に内務省令で化粧品への使用が禁止され、1935年以降は市場から姿を消した。
美術材料としては変色の問題もある。環境中の硫化水素と反応して黒い硫化鉛になり、灰色や黒っぽく変わることがある。古い絵巻で顔の色が黒く変わった例が知られる。油絵では、鉛を含む顔料と油由来の脂肪酸が反応して「鉛石鹸」ができ、塗膜の状態が変わる場合もある。
20世紀には亜鉛華やチタン白など鉛を含まない白色顔料が使われるようになり、鉛白の生産量は大きく減った。
色名と材料は別
鉛白を含む専門家用の絵具は現在もあるが、似た名前でも鉛を含まない代替品がある。色名として「鉛白」を使うことと、鉛白の顔料を使うことは別で、印刷では顔料の鉛白そのものは使わず、CMYKのインキで近い色を再現する。実際の色は、用紙や出力条件で変わる。
このページの代表色について
鉛白には資料によって色の幅があります。本ページでは複数の色名資料を照らし合わせ、比較や印刷シミュレーションに使用する代表色を設定しています。
鉛白は画面と印刷でどう違う?
コート紙想定では、画面の色とほとんど変わりません。上質紙などの非塗工紙想定では、画面の色とほとんど変わりません。
ⓘ ΔE00とは
2つの色の違いを表す国際的な色差の数値です。1未満は見分けにくいほど、1〜2はわずか、2〜3.5は少し、3.5〜5ははっきり、5以上は大きな差の目安です。
鉛白は紙によってどう変わる?
同じ鉛白でも、刷る紙によって仕上がりが変わります。紙そのものの白さの違いも含めて、コート紙想定と非塗工紙想定で刷った色を並べました。
コート紙想定から非塗工紙想定にすると、わずかに暗くなる、少し鮮やかになる。コート紙用のCMYKのまま非塗工紙に刷ると、わずかに暗くなる、少し鮮やかになる。紙に合わせたCMYKにするほうが、ねらいの色に近づきます。
鉛白を印刷するときの注意
使う版(インキの色数) 3版C4M2Y1K
| 使う版 | 3版(シアン・マゼンタ・イエロー)コート紙想定のCMYK |
|---|---|
| 総インキ量 | 7%4色の網点%の合計(非塗工紙想定は5%) |
| 転びやすさ色のブレやすさ | 転びやすいΔE00 4.2ⓘ 転びやすさとは印刷の便利帳独自の目安です。各版の網点が±4%変動したときの色差(ΔE00)から求めています。一般的な規格の数値ではありません。計算・シミュレーション条件 |
| 入稿のときの注意 |
|
鉛白の詳しい印刷シミュレーション
版ごとの変化
鉛白は、それぞれの版の網点を重ねて刷ることで出す色です。丸の下の数値は、その版の網点が±4%ぶれたときの色の変化(ΔE00)です。
墨への置き換え(GCR)
イエローが1%と少ないため、置き換えられるのはイエローの分だけです。墨に置き換えたときの変化を見るための簡易シミュレーションで、実際のICCプロファイルの墨版の作り方そのものではありません。GCRとは →
網点の拡大図
AMスクリーンは、規則的に並んだ網点の大きさを変え、版ごとに角度をずらして重ねることで濃淡を表現します。
FMスクリーンは、ごく小さな点を不規則に散らし、点の数で濃淡を表現します。
図は拡大したイメージです。AMスクリーニングとは → FMスクリーニングとは →
鉛白に近い色
丸の左半分が鉛白、右半分がその色です。鉛白と比べた違いを、色の差(ΔE00)が小さい順に並べています。
鮮やかさは近い
色みは近いΔE00 0.8
鮮やかさは近い
色みは近いΔE00 1.5
鮮やかさがやや高い
色みは近いΔE00 1.7
鮮やかさがやや低い
色みは近いΔE00 2.1
鉛白のカラーコード
HEXとCMYK(コート紙想定)はページ冒頭に載せています。RGB・Lab・LChなど、色校正や測色のやりとりに使う数値はここにまとめています。
RGB・Lab・LChなどの数値を見る
| HEX | #F6F9FB代表色(sRGB) |
|---|---|
| RGB | R 246 G 249 B 251 |
| CMYKコート紙想定 | C4 M2 Y1 K0PSO Coated v3(FOGRA51)で計算 |
| CMYK非塗工紙想定 | C3 M1 Y1 K0上質紙などの非塗工紙を想定。PSO Uncoated v3(FOGRA52)で計算 |
| LabD50 | L 97.7 a -0.8 b -1.3 |
| LChD50 | L 97.7 C 1.5 h 240.2°明るさ・鮮やかさ・色相で表したもの |
| 系統 | 無彩色 |
| 分類 | 日本・伝統色・染料・顔料 |
CMYKは印刷条件ごとに変わる目安の値です。入稿先の印刷会社が指定する条件がある場合は、そちらに合わせてください。
色を確かめる色見本帳と本
画面で見える色と、紙に刷った色は同じではありません。印刷物の色を決めるときは、色見本帳で実物を見て確かめると確実です。
出典・参考資料
- 色名資料コトバンク「鉛白」(平凡社「世界大百科事典」)、「鉛白」(小学館「日本大百科全書(ニッポニカ)」)、「鉛白」(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)、「鉛白」(平凡社「百科事典マイペディア」)、ウィキペディア日本語版「鉛白」
- ICC・印刷条件PSO Coated v3(FOGRA51)、PSO Uncoated v3(FOGRA52)(European Color Initiative)
